妻木芳人オリジナルBL漫画サイト「DANCE HALL」

「ハッピークリスマス」

イラスト「ハッピークリスマス1」

(Sideデューイ)「だから俺は嫌だっつったんだ…!」「へへへ…ごめん、うちのやつらみんな元気で;」 目の前の優男がいつものヘラヘラ顔で言う。俺はガキなんか嫌いだ。 何でかって…こうやって遠慮なしに乗っかってきたりひっぱったりするからだ! 「あしょぼ!あしょぼ!」 一番下の妹はまだ言葉を覚え始めたところらしい。 「わぁ!お兄ちゃん綺麗ね」 下から二番目の妹は小さな手でやたら顔や髪を撫でてくる。 「クリフお兄ちゃんの言ってた通りだね」 一番上の妹は11、2歳だろうか。下の二人よりは少し落ち着いている。 ――…クリフがクリスマスは実家に帰るというので、俺は一人男娼街に残るつもりでいた。 が、当日になって「え?デューイも一緒に行くでしょ?」と当然のように言われ、 無理やり連れて来られたのだ。

イラスト「ハッピークリスマス2」

「おいクリフ、妹一人足りなくねぇか?確か前に4人いるっつってなかったっけ?」 俺にじゃれついているガキは3人。下から三番目の妹がいない。 「あー、ネルはあそこに…」 クリフの視線の先をたどると、手作りであろうクリスマスツリーの影にムスッとした表情の女の子が ボロいテディベアを大事そうに抱えて座っていた。 「あいつはほら、うちの家系には珍しく孤独を愛するタイプなんだよ!うん!」 「は?今からクリスマスパーティーやんだろ?あいつだけ放っとくつもりかよ」 「や…そりゃ俺だって一緒にやりたいんだけど――…」 クリフは少し困ったような表情で立ち上がった俺を止めようとする。 変な奴。一匹狼だった俺には強引に近づいて来たくせに。 「おい」 「…」 ネルはムスッとした顔でこっちを見た。 「クリスマスパーティーするぞ。こっち来いよ」 「…クリフがいるからやだ」 俺は耳を疑った。気遣い屋で誰からも好かれていそうなクリフが実の妹にはどうやら嫌われているらしい。 一体何をしたのか…。 「何だ、兄貴とけんかでもしたのか?」 「…」 また黙ってしまった。ガキはやっぱり苦手だ。何を考えてるのかさっぱりわからない。 「そのクマ、綿飛び出てんじゃん」 「捨てちゃダメよ!ダリウスはお友達なんだから!!」 「直してやろっか?」 「え…?」 「繕い直して…洗濯もした方がいいな。ケガしたまんまじゃ可哀相だろ、お友達が」 ネルの表情が急に変わった。どうやら本当に大切な「お友達」らしい。 「ただし、クリスマスパーティーにちゃんと参加したらな。クリフとは一番離れた席にしてやるから」 「…」 黙った…やっぱだめか…? 「…お兄ちゃんのお膝がいい」 「は?」 「お兄ちゃんのお膝なら一緒にお祝いする」 ネルはほっぺたを少し赤くして、小さな声で言った。クリフのことはクリフって呼んでたし… お兄ちゃん=俺…だよな。 「しゃーねぇな…」 頭をなでてやると、ネルはにっこりと嬉しそうに笑った。やっぱよくわかんねぇわ…ガキは。

イラスト「ハッピークリスマス3」

―――数時間後。 さっきまでギャーギャーとうるさかった家の中が今は静まり返っている。 「やっとみんな寝てくれたよ…」 隣の部屋からちょっと疲れた表情でクリフが出てきた。 俺はネルから預かった「お友達」をぼんやり眺めながら、夕方の会話を思い出していた。 「お前さ…ネルと何かあったの?」 「え…」 一瞬クリフが固まる。何でもヘラヘラと明るく話してしまうこいつでも話しづらいことがあるのかと 俺は妙に冷静に考えた。 「いや…ハハッ!何もないない!ほら、年頃の女の子って親父嫌ったりするじゃん? ネルはおませさんだからそんな感じなんだよ…!」 絶対何か隠してるな…こいつ。と思いつつも、俺は「ふーん」と流してやった。 会話が一瞬途切れ、沈黙が流れる。ふいにクリフの温かい手が頬に触れた。 「ヤんのか?」 「ハハッ…ムードねぇの」 あの日以来、俺達の関係は微妙だ。「どうしていいのかわからない」というような ギクシャクした感じが少しあって、そういう行為もあれからしていない。 あの汚れた街で生きている俺達にとって、恋だの愛だの甘ったるい空気はどうも馴染みがなく、 こういう状態に陥っているのかもしれない。 「今日は来てくれてありがと…」 そっと触れるようなキスだった。 「バカ…何でお前が言うんだよ」 ゆっくりと床に押し倒された。クリフの唇が全身を這う。 「俺は…っ」 下腹部に触れられて一瞬声がつまった。 「俺は…こんなクリスマス過ごしたことなかった…」 目の前の景色がにじんでいる。何かもっと言いたいことがあるのにうまく言葉にできなくてもどかしい。 クリフは俺の顔を掌で包んで優しく微笑んだかと思うと、 今度は深くからみつくようなキスをしてきた。 「ん…っふ…っ」 息苦しさと心地よさで意識が朦朧とする。 「これからは毎年こんなクリスマスだよ」 落ち着いた声色でクリフが囁いた。 何の保証もないこの関係…なのにどうしてこんな言葉が信じられるんだろう。 俺はクリフの背中に腕を回し、ただ強く抱きしめた。